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10年前から股関節の痛みに襲われます

10年前のあの日から痛みが…

 

当院に来院されたのは、たまたま海外から、旅行目的で来日した青年でした。

この青年は、10年前に高所から落下し、全身を打撲して以来、突然訪れる股関節周辺の痛みに、度々悩まされていたそうです。

まさか母国から遠く離れた日本で、歩くのにも苦労するような痛みに苦しむ事になるとは…。

 

受診のきっかけはたまたま

 

患者:30代男性 海外国籍 かなりの大柄な男性

 

この男性は、学生時代にアメリカンフットボールをされていたそうで、かなりの体格の大きさでした。

目測で身長自体は180cm弱程度ですが、120~130kg前後はありそうな大きな体で、筋肉と脂肪が付いた体型でした。

 

10年前に高所から落下して以来、突然訪れる股関節の痛みに度々襲われるそうです。

痛みが出るきっかけは、自分でも分からないそうです。

 

10年前の落下事故のことが原因だと思っているが、痛みがずっとある訳ではなく、突然出現するため、医師も治すことは出来ないと言ったそうです。(分からないということかと)

 

今回来院されたのは、たまたま旅行先で股関節の痛みが発症し、ネットで検索したところ、たまたま当院を発見したからということでした。

 

鍼灸治療を受けたことがないということでしたが、痛みを何とかして欲しいということでしたので、ご予約をお受けしました。

 

診察

 

痛みがあるのは、右股関節ということでしたが、右背部や右肩の周辺にも、かなり強い筋緊張が見られました。

背骨が筋緊張で引っ張られ、大きく湾曲するほどの筋緊張でした。

 

実際に触ってみると、痛みが強い股関節周辺にも炎症症状が見られず、返って冷たいほどでした。

痛む箇所からすると、丁度股関節の外旋筋群や外転筋群の関与が疑われました。

 

自発痛(動かない時の痛み)はなく、右脚を少し動かしただけでも痛むため、じっとしているしかないということでした。

明らかに股関節の運動制限があり、特に屈曲や内旋に強い痛みを感じるようでした。

 

こうした症状からも、股関節の外旋筋群で、しかもかなり深部の筋肉が原因であることが考えられました。

なぜなら、表面から全く炎症所見が見られなかったためです。

体格からしても、筋肉と脂肪の分厚い壁で、通常のマッサージなどでは全く効果がないであろうと思われました。

当然、低周波などの電気療法でも無理でしょうから、鍼灸治療に来て頂いて良かったと思います。

 

また、気になった右肩の異様な筋肉の盛り上がりは、趣味のダーツも影響しているようです。

右肩を前に出し、常に右肩をすくめた状態で長時間ゲームするため、体にアンバランスな筋肉の癖が付いていると思われます。


<参考:ダーツの姿勢>

 

最終的には、こうした体全体のアンバランスを取り去ることと、脳に記憶されている、痛みの記憶を無くす必要もあります。

 

滞在期間ギリギリまで通院したいということでしたので、出来る限り施術者をした上で、帰国後のプログラムをご用意しました。

 

鍼灸治療

 

【初回の施術】

 

初回の鍼灸治療は、痛みを取ることを最優先とし、筋肉を緩めるための局所的な治療をさせて頂きました。

今回の症例では、強い炎症症状というよりは、股関節深部外旋筋群の血行不良が原因であると思われました。

 

10年前に高所から落下した際に、股関節深部筋群を痛めたせいで、慢性的な血行不良を起こすようになったのではないか、と思われました。

 

血行不良は、強い炎症を起こす時のようにきっかけが必要なく、徐々に疲労が溜まった時だけ、強い症状が出るのだと思います。

恐らく長時間のダーツや、今回の旅行のように、長時間半身の体勢で重い荷物を運んだ時にも、症状を発するのでしょう。

 

そこで、筋緊張が見られた首肩や背部には、細い鍼で軽く刺激する程度にし、患部である右股関節には、しっかり深部外旋筋群にアプローチしました。

 

【2回目の施術】

 

2回目は、初診の翌日に来て頂きました。

痛みは前日の半分程度に減っており、非常によく寝ることが出来たということでした。

 

歩く姿も昨日とは見違えるようで、かなり痛みが少なくなったのが、客観的にも分かりました。

服を脱いでうつ伏せに寝て頂くと、前日見られた背骨の側弯がほぼ無くなり、筋肉の緊張も軽減していました。

 

昨日に引き続き、痛みを一気に無くす施術を行ないました。

昨日の鍼灸治療に加え、ベッドに腰を掛けた状態で、運動鍼を行ないました。

 

今回行った運動鍼は、次の通りです。

 

⒈ベッドに深く腰を掛け、膝の裏がベッドに当たるようにする。

⒉足部に経絡を考慮して鍼を1本刺す。

⒊鍼を刺した状態で股関節の屈曲を繰り返す。

 

運動鍼を20回繰り返したところで鍼を抜き、立ち上がった痛みを評価してもらいました。

痛みは更に小さくなり、更に半分程度ということでしたので、約25%程度になったことになります。

 

急性期治療としては十分な効果が出ましたので、3回目以降は「どこまで完治に近付けることが出来るか」という挑戦です。

10年前から続く痛みを、異国の地の鍼灸院で治すことが出来るのでしょうか?

 

【3回目の施術】

 

3回目の施術は、2回目の施術から、更に3日後に来て頂きました。

痛みは更に軽くなり、日常生活では支障が無い程度には良くなっているようでした。

 

前回までで、今回発症した痛みに関しては、ほぼ無くなっているとのことでした。

これからが、10年間彼を悩ませた、痛みの本体に対する施術となります。

 

彼は事故以来、度々訪れる痛みのため、運動をすることが全く出来なくなったそうです。

そのため、ここ10年でかなり体形に変化があったそうで、お腹が大きく前に張り出し、腰椎の反りも強く見られました。

 

腰椎の反りが強くなり、骨盤の前傾が強くなると、自然に股関節は外旋するようになります。

常に股関節が外旋することで、彼の外旋筋群は常に緊張を強いられることになり、慢性疲労が溜まりやすい状態になっていると考えられます。

 

腰の反りや肥満体形と股関節の外旋の関係は、妊婦さんを想像すると分かりやすいと思います。

お腹が出ると腰の反りが強くなり、ガニ股になりますが、正にそのことを言っています。

 

根本的に彼の股関節痛を治すためには、この姿勢や体形を矯正する必要があるということです。

彼は旅行者ですから、痩せるまでの間、当院で管理は出来ませんので、体形を管理する必要性を知って頂き、帰国後にすることを学んで帰って頂くことにしました。

 

また腰椎の反りのせいで固くなっている背筋群や、大腿部の筋肉に対しては、出来る限りこちらで必要な施術を加えました。

しっかりと必要な対処をすると、今よりもずっと良くなるということを体感して頂ければ、帰国してからも体調管理が出来ると思います。

 

またもう一つの課題である、脳に刷り込まれた痛みの記憶についても、少しお話します。

痛みと言うのは、負傷した部位から脳に伝わり、その時の感情(恐怖感など)と共に記憶されます。

 

この記憶情報は、通常なら適切に処理されて、知らない内にぼんやりとした記憶になっていきます。

ところが、その時の痛みが強過ぎたり長引いたりすることで、記憶に深く刻み込まれることがあります。

 

この患者さんの場合も、約10年に渡り痛みが続いたことで、痛み記憶として脳に刻み込まれているようです。

また、痛みを避ける歩行や姿勢を続けてきたことで、体の動かし方にも癖が付いてしまってます。

 

こうした脳や神経に対しても、鍼灸治療は働き掛けます。

 

こうした間違った記憶を正しく書き換えるために、痛みが起こるルートを特定し、そのルートに沿って鍼を刺していきます。

彼の場合、殆どの症状が胆経という経絡に沿って出ていました。

 

胆経の病は、急激なギックリ腰など、強い痛みを発することが特徴です。

また胆の腑は、血の気血の流れにもよく影響を受けますので、この患者さんの特徴にもよく合っています。

 

もう一つ、胆経は脳にも深い関係があるため、精神科疾患を始め、脳や神経と深い関係がある臓腑経絡です。

 

そこで胆経上の経絡の詰まりを、丁寧に鍼で取り除きました。

すると、見違えるように痛みが無くなっていき、ニコニコ顔で帰っていきました。

帰国まで後2回の施術予定を組みました。

【4回目の施術】

 

来院された時の様子を見ると、少し足を引きずっている様子でした。

「あれ? ちょっとぶり返したかな…。」

と思いましたが、後で聞いてみると、股関節や腰の痛みはそれほどだけど、実は海鮮の食べ過ぎで痛風になったということでした。

痛風発作を起こしているなら、それは痛いでしょうね。

 

施術自体は同様で、全体の筋緊張を緩めて、筋肉と脳のネットワークを正しくするための施術です。

今回はプラスして、体調管理の鍼も加えました。

 

患者さんの仰るように、東洋医学的な腎機能の低下が見られ、水分代謝が悪くなっているようでした。

舌には歯痕が見られ、脈では腎陽虚が強く見られました。

腎機能が低下すると、老廃物を排出する力が衰える為、痛風になりやすくなります。

そこで腎機能を高めるような施術と、溜まった老廃物を体外に出す施術を加えました。

施術終了後、痛みを確認して頂くと、痛みがない様子でしたので、施術を終了しました。

 

また帰国後も、鹹(しおからい)ものの食べ過ぎには注する様にと指導しました。

鹹味の食べ過ぎは、腎を弱らせる原因になるからです。

 

施術が終わってから色々お話をしましたが、ストレスでよく眠れないということでした。

旅行先の異国の地で、国へも帰れず、観光する状況でもなく、1人でホテルに缶詰め状態…。

 

しかも情報が中々入って来ないでしょうから、不安で仕方ないのでしょうね。

ここでの施術やお話が、ストレス緩和に役立つと良いのですが…。

(2020.2.25更新)

 

【5回目の施術】

 

これが最終の施術となりました。

前回は、股関節の痛みが良くなったにも関わらず、まさかの痛風発作が出たことで、歩行困難になっていらっしゃいました。

 

今回は、来院時も、靴を脱いだり服を着替えたりという動作も、かなりスムーズでした。

反応点を押すと痛みは出ますが、これは全身のバランスが完全に整っていないためですから、急には無くなりません。

 

5回目の来院となった今回は、4回目の施術から、2日後に来院して頂きました。

施術は前回と同様に、筋緊張を緩める施術と、腎機能を高めるための施術を行いました。

 

初診時に感じていた痛みに関しては、完全に無くなりました。

ただ同じような生活をしていると、股関節の痛みや痛風発作が出て来ることは明らかなので、今後の注意点や改善点をお伝えしました。

 

・腰部への負担を減らすためにお腹を凹ませること。

・腎臓への負荷を減らすため、塩分接種を控えること。

・左右のアンバランス矯正のため水泳などの左右均等の運動励行。

・股関節周囲の筋肉(特に外旋筋)のストレッチ。

 

帰国後も、2週間ほどは隔離生活を強いられるでしょうから、ストレスが続くと思いますが、今後の健康管理に役立てて頂ければと思います。

(更新2020.2.29)

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鍼灸ひより堂