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子宮がん手術後から全身を移動する痛みに悩まされた女性の鍼灸治療例

日によって痛むところが変わるんです

 

<患者>

 

大阪市在住 60代女性 無職

 

<来院までの経緯>

 

当院に来院する3年前、たまたま受けた健診で子宮体がんが発覚し、子宮ならびに卵巣を外科手術で摘出した。

その後、投薬治療を受けていたが、手術後から、様々な体調不良に悩むようになった。

主な症状は、顔の火照り、手足の冷え、身体じゅうを移動する痛みなど。

内科、婦人科、整形外科、精神科など、様々な病院に通ったが、症状は変わらず、自宅近くに出来た当院を見付け、相談を兼ねて来院。

 

<初診時のご様子>

 

かなりの肥満体形で、膝はO脚になっており、姿勢もあまり良くないようでした。

内科では糖尿病の投薬を受けており、それ以外にも様々な投薬を受けていらっしゃいました。

子宮がんの手術後から、更年期症状に悩まされていましたが、手術時には、既に閉経しており、単にホルモンの変化とは言えないように思えました。

また全身を移動する痛みは、整形外科的な問題というよりは、脳機能の関与が、大きく関係するであると思われました。

そのため、よく痛みを訴える腰や膝、首やお腹の傷口にも、炎症症状らしきものは見られませんでした。

ただ、姿勢の問題や膝の変形など、整形外科的な問題も、完全に無視するわけにはいかないため、状況により、施術内容を変えながら、対処する必要があると思われました。

 

<1回目の施術>

 

まずは仰向けで腹診と脈診、そして舌診をしました。東洋医学では、お腹で全身の状態を診察しますが、お腹全体に固いしこりを感じました。

脈診では、沈んで固い脈をしており、来院された季節とは相反する脈をしておりました。

舌は全体に暗い色調で、全体に荒れた様子でした。

みぞおちから肋骨に沿って固くなっている方は、呼吸が浅く、普段からストレスや緊張感を抱えている人が多いようです。

下腹部のしこりは、元々の婦人科疾患の原因となった、血行不良や炎症を表しますので、こうした体に表れている徴候を、鍼灸治療で無くしていくことが、一つの目標になります。

次に、うつ伏せになって頂きました。

うつ伏せで見たところ、首肩のコリや背部の背骨に沿った筋肉の強ばり、肩甲骨下部周辺のこわ張りが強く出ていました。

また、骨盤後面の皮膚には、細絡という毛細血管の束が浮き出ていました。

仰向けで現れていた兆候と、対称的な位置に反応が表れています。みぞおちに出ていたストレス反応は、背中のこわ張りや、横隔膜周辺の筋肉の盛り上がりとして表れ、腹部のしこりは、骨盤後面の細絡として出ています。

これでやることがハッキリしましたので、施術に取り掛かりました。

 

◎うつ伏せ

 

頸部のコリと背部のコリを取り除き、呼吸を深く吸えるように施術をします。

長さ40mm太さ0.2mmの鍼で、しっかり刺して、凝りを取り除きました。

骨盤後面の細絡に対しても、しっかり血を巡らせるように施術をしました。

 

◎仰向け

 

仰向けでは、腹部のしこりに対しての施術と、足のツボを使って遠隔的に血流を良くする施術をしました。

使った鍼は、長さ15mm太さ0.18mmのものです。

 

施術後は、からだの痛みはあまり感じないということでしたが、整形外科的な問題よりも、脳機能の問題が考えられるため、安易に良くなったとは言えない状態でした。

 

<脳機能と痛みの関係とは>

 

皆さんは、痛みの定義をご存知でしょうか?

痛みというのは「組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結びつくか、このような傷害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚、情動体験である」と定義されています。

つまり、情動体験も痛みなのです。これは心の痛みというような情緒的な話ではなく、「情動体験も、脳では痛みとして認識することがある」ということなのです。

痛みが脳に認識される時、痛みを発している部位から知覚神経を通して、脳に痛みが伝えられます。

脳では視床という部分から、枝分かれして様々な場所に刺激が届くのですが、その過程で、扁桃体や海馬といった部位に影響することで、痛みが情動や記憶などと結び付けられます。

例えば、恐怖を感じるような場面でした怪我は、恐怖心と痛みという情報が結び付いて、深く記憶に残ることがあるということです。

すると、恐怖心を感じるだけでも、脳では痛みとして感じるようになることがあります。これが情動体験から起こる、痛み記憶ということです。

この女性患者さまの場合、子宮がんで子宮を取り去るという、死への恐怖や、女性としての子宮への強い思い入れが相まって、手術後出現した全身を移動する痛みや、更年期症状に繋がっていると思われます。

 

<2回目以降の施術>

 

前回の施術後、からだが軽くなったような気はするが、痛みはたまに出ては消えるということでした。

更年期症状は相変わらず出ているようでしたが、初回と比べると顔は明るく見え、回数を重ねるごとに、よく会話をして頂けるようになりました。

施術内容は前回と同様です。むくみがたまに出るようですので、水分代謝が良くなるように、腎経のツボを使用することが増えました。

東洋医学では、腎は生殖を主(つかさど)る臓腑です。生殖作用を持つ卵巣や子宮が摘出されていますから、それを補う意味でも腎経を積極的に使いました。

また肝経は、子宮や卵巣に繋がり、血を蓄える臓腑ですが、瘀血(おけつ)という血の滞る病態と密接ですから、肝経も積極的に使用しました。


<福建科学技術出版社 経絡図解より>

 

<その後>

 

この患者さまは、平成16年頃に初めて来院されてから、今現在(70代)もご来院されています。初期の頃とは、比べ物にならないほどお元気ですが、今も変わらず、来院のたびに様々な症状を訴えていらっしゃいます。

それでも、毎日のように友人と趣味に興じ、元気に飛び回っていらっしゃいます。

初診の時のように、いつ死が訪れるか」といった、悲壮感に満ちた感じはありません。

たまに気になる通販健康器具を見付けては、「これどうかな?」と、止められることを承知で質問されています。

 

慢性的な痛みや、不安感を感じている患者さまの場合には、「キレイさっぱり完治!」とはいかないことが多いのが現実です。

ぎっくり腰や首の寝違えなら、「すっかり治ってしまったので、もう来なくていいですよ。」と言えるのですが、今回のような症状を訴える患者さまは、来なくて良いと言われると、逆に不安で別の鍼灸院に通うだけです。

ですから、この患者さまの場合、私の命と患者さまの命が続く限り、継続して施術していく予定です。

 

私がこの世界に入って、初めて施術した女性は、69歳から86歳で他界されるまで施術させて頂きました。

この患者さまも、同じように最期まで施術出来るように、頑張りたいと思っています。

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鍼灸ひより堂