鍼灸治療の抗炎症作用について(クローン病の臨床研究)
古くから炎症性疾患は鍼灸の適応疾患
古来より鍼灸治療では、様々な炎症施疾患を適応症として来ました。
1000年以上前の古い書物にも、こうした炎症性疾患の治療を思わせるものが記載されています。
西洋医学がメインの現代では、内科疾患や免疫系疾患を鍼灸治療の適応だと考えていない方も多いでしょうが、実際には数多くの鍼灸院で施術が行われています。
鍼灸治療がなぜ炎症性疾患に対して効果を挙げるのかは、まだ不明な点も多いのですが、少しずつ炎症性疾患と鍼灸治療の関係性が見えてくるようになりました。
Th17とTregから見た鍼灸治療と炎症性疾患
Th17という免疫細胞は、炎症性サイトカインである, IL-17、IL-21、IL-22、TNF-αなどを産生して、炎症を誘導することが知られています。
炎症性疾患を持つ方の体内ではこのTh17が増えており、Th17が誘導した炎症性サイトカインによって炎症が起こるのです。
これに対して、体内には炎症を抑える働きの免疫細胞も存在します。
それがTregと呼ばれる免疫細胞です。
TregにはTh17を抑制する働きがあるため、Tregが増えている状態ではTh17の産生が抑制され、結果として炎症反応が抑えられます。
そのためこの二つの免疫細胞のバランスは、そのまま体内の炎症活動と相関関係があります。
つまり意図的にTregを増やすことが出来れば、Th17の産生を抑制することで、炎症性疾患の症状を改善することが出来るということです。
鍼灸治療はTregを増やす働きがある
ここで一つの臨床研究をご紹介します。
この臨床研究では、以前同じ研究者が実証した、炎症性腸疾患であるクローン病に対する鍼灸治療の効果が、何によってもたらされたのかを研究しています。
<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4539447/?log$=activity>
クローン病は主として若年者にみられ、口から肛門にいたるまでのすべての消化管に炎症や潰瘍が起こりますが、小腸と大腸が炎症の中心で、特に小腸の末端部が好発部位です。
それらの病変により腹痛や下痢、血便、体重減少などが生じます。
このクローン病に対する鍼灸治療が効果を認めたため、その原因を探ったわけです。
治療内容としては、足の経穴に太さ30mm長さは40mmまたは25mmの鍼を約20~30mmまで刺し、その状態で30分置鍼しています。
太さ30mmの鍼は、日本で言うとかなりの太さの鍼ですが、中国では一般的に使用されている鍼のようです。
こうした施術を週3回×12週間(計36回)に渡って行い、その後、腸粘膜のTh17とTregの数値を比較して、症状の改善が何によってもたらされたかを予測しました。
以前行った臨床研究の中で、生活の質を改善することや、CRPレベルを低下させヘモグロビンレベルを上昇させることが示されていましたが、今回の研究でそれがTh17とTregのバランスを改善したことで得られたことが分かったようです。
こうした臨床研究は、 個人開業する私のような鍼灸師では手に負えないため、こうした研究機関で行って頂けるととても有難いものです。
普段の施術で臨床効果は出ていても、それがなぜ効果があるのかが分からないからです。
東洋医学的には理解出来ていても、こうした科学的な理解もこれからは欠かせな分野だと思いますので、日本の医療大学などにも頑張って頂ければと思います。