中心性漿液性脈絡網膜症に対する鍼灸治療症例 大阪市在住 30代男性
患者:30代男性 大阪市在住 会社員
病名:中心性漿液性脈絡網膜症
症状: 視野の歪みと色付き(黄色っぽい)、眼痛と偏頭痛
経緯
来院の3か月前から、右眼で見た時だけ、視野の真ん中周辺に歪みが出てきたそうです。
暫く様子を見ていたのですが、一向に症状が治らない為、1か月ほど経ってから、自宅近くの眼科を受診されました。
眼科での眼底検査の結果、右眼の黄斑部に浮腫が出来ており、中心性漿液性脈絡網膜症だと診断されました。
レーザー治療も勧められたそうですが、結局は暫く投薬で様子を見ることになり、その後3か月程度様子を見ていました。
ところが、一向に良くなる気配がなく、それに追い打ちをかけるように、来院の1週間前から右側の眼痛を強く感じるようになり、症状(視野の歪みや色付き)も進行。
そこでネットで色々と検索したところ、自分と同じ病名の当院患者の口コミを見付け来院されたそうです。
嗜好品
喫煙有 飲酒は1回/2週間ですが2~3リットル(ビール)
初診
眼科疾患だけでなく、これから妊活を積極的に行いたいということでしたので、先ずは禁煙をお薦めしました。
それと同時に、食事指導もさせて頂きました。
飲酒は回数を減らすようにして頂くつもりでしたが、自宅ではほとんど飲酒をせず、職場の飲み会でのみ飲酒をしていましたが、コロナ自粛で飲み会が無くなったことで飲酒も殆ど無くなったそうです。
強い眼痛や偏頭痛は、眼底部の浮腫や、その原因になった眼底の血行障害、或いは炎症が原因であると思われます。
眼球周辺の知覚(感覚)は、三叉神経の第1枝である眼神経が支配しています。
三叉神経が感じる不調は、偏頭痛の原因ともなるため、目の不調を中心にして、様々な症状を引き起こしているようでした。
治療方針としては、まず眼底部の血行を良くすることを第一目標としました。
眼底部の血流を良くすることで、浮腫を起こした原因を取り除き、毛細血管から漿液を再吸収させるためです。
また血液循環が良くなることで、三叉神経の状態も良くなると思われますので、偏頭痛も軽減するであろうと考えました。
施術の頻度としては、まだ急性期で変化の可能性が高いことから週2回としました。
鍼灸治療と経過
鍼灸治療としては、眼底部の血流をスムーズにするために、後頚部や目の周辺に鍼を刺しました。
目の周辺には、太さが0.1mm~0.12mmの極細の鍼を使用して、痛みが無く眼球を傷付ける危険性が極力少ないものを使用しました。
<イメージ画像:この鍼は太さ0.12mm(緑)と0.1mm(青)のものです>
また後頚部には、太さ0.18mmのものを使用し、少し響かせる鍼をすることで、頭痛や眼痛を取り除きました。
<イメージ画像:この鍼は太さ0.18mmのものです>
残念ながら初診の段階では、当院にまだ視野検査や視力検査の機器が揃っていなかったこともあり、検査データを残すことが出来ませんでした。
下の画像は、1カ月半たってからの簡易視野検査です。
この時点でかなり視野の歪みの範囲は、自覚的に小さくなっているということでした。
ところがこの患者さんの場合、この後に大きなアクシデントがありました。
少し肥満傾向があったため、運動をお勧めしていたのですが、かなり負荷の高い筋力トレーニングをされたそうで、その後症状が一気に悪化しました。
恐らく、治りかけていた中心性漿液性脈絡網膜症が再発したものと思われます。
中心性漿液性脈絡網膜症は、血管が豊富な脈絡膜から、網膜に向けて血漿成分が押し出されて発生します。
この患者さんの場合、高負荷の運動をしたことで血管に大きな圧力が掛かり、塞がりかけていた網膜に再び隙間が出来たのでしょう。
その時の簡易視野検査結果がこちらです。
依然と比べて、明らかに視野の歪みの範囲(浮腫の大きさ)が増えています。
これは明らかに私の運動指導のミスですので、ご本人にもお詫びしました。
ここから再出発となってしまいましたが、そこから更に10日後の画像がこちらです。
治療開始から1か月後、再発後、更にそこから治療再開10日後を並べてみます。
何とか再発前の段階くらいにまで回復したようです。
中心性漿液性脈絡網膜症を抱えている人からすると、そんなに短期間で変化するのかと思うかもしれませんが、これが実際の鍼灸治療による変化です。
鍼灸治療では眼底の血流を増やすことで、浮腫を非常に早く変化させることが出来るようです。
同じミスを繰り返さないために、激しい運動をしないよう制限して頂き、更に鍼灸治療を週1回ペースで続けて頂きました。
鍼灸治療開始から約半年後の簡易視野検査結果がこちらです。
歪みや色付きの範囲が明確であるため、今回のように丸く本当の見え方を示すことが出来ました。
では1回目の視野検査と比べてみましょう。
今回の症例では、一度運動による再発があったことが悔やまれますが、全体としてはかなり良くなっています。
今後、OCT撮影もされるそうですので、ご提供がして頂ければご紹介します。
【追加:一石二鳥の鍼灸治療】
実はこの患者さんの治療には、もう一つの側面がありました。
それは最初に書いた通り、この患者さんはご夫婦で妊活に取り組んでいたからでした。
そこで眼科疾患の治療に加えて、生殖器系の鍼灸治療も少しだけ加えていました。
すると鍼灸治療開始半年後の精液検査では、非常に良い結果が得られました。
この結果には、禁煙してい頂いたことも、大きく関係しているだろうと思われます。
また、末梢の血液循環を改善するということが、妊活にも大きな影響を与えることを示唆しています。
妊活鍼灸と眼科鍼灸は、案外近い関係にあるということです。
そもそも東洋医学では、目も生殖器も肝経の経絡が通るところです。
そのため、肝の働きを良くすることで、目にも生殖器系にもいい影響が出てきます。
この患者さんには、腰痛もありましたので、眼科疾患、妊活、腰痛治療を全て同時進行で行ってきました。
こうした同時進行的な治療も、東洋医学や鍼灸治療の素晴らしい点ではないかと思います。