近視性脈絡膜新生血管に対する鍼灸症例 40代男性 会社役員
IPS細胞が実用化されるまでなんとか…
今回ご紹介する症例の男性は、近視性脈絡膜新生血管で抗VEGF注射による治療を、繰り返し受けることになってしまいました。
抗VEGF薬は、新生血管には強い威力を発揮する一方で、根本的な問題解決にならないことから、一定期間おきに注射を繰り返すことにもなる方もいらっしゃいます。
この症例の男性は、正にそうした状態に陥っていらっしゃいました。
神戸の病院では、IPS細胞の実用化に向けた臨床試験が始まりましたが、まだ実用化までには時間が掛かるため、せめてそれまでは症状を悪化させたくないという思いで、当院にご来院されました。
患者
40代 男性 発病は当院来院の1年8か月前
病歴
当院に来院される1年8カ月前に、左目に近視性脈絡膜新生血管を発病。
その後、眼科にてルセンティス(抗VEGF薬)を眼底に注射して症状は改善しましたが、翌年(4か月後)になり再発。
その際もルセンティスを注射。(合計3回)
左眼の再発から8カ月後、今度は右眼に発病し、右眼にはアイリーアを眼底部に注射。
右目も4か月後に再発し、再びアイリーアを注射。(合計5回)
現在は、右眼の中心部に、やや大きめに薄く色づいて歪みが出ている。
左眼には中心部にごく小さな歪みと視野欠損が存在する。
左目の時には、ほぼ症状が一旦は改善したため、右眼も同じように、もう少し良くなるかもしれないと眼科では言われている状態だそうです。
親族や仕事関係に医療関係の方が複数いらっしゃるそうで、そうした方々に相談したところ、鍼灸治療を受けることを勧めてくれたことも、来院のきっかけだそうです。
またそうした親族の協力もあり、飲食物などもかなり気を遣っているようで、体重もかなり落ちて、健康的な生活をされているということでした。
当院での簡易検査
当院で行った視力と視野検査では、本人の自覚症状通り、視野の欠損や歪みが見られました。<①図参照>
<①図>
視力はコンタクトによる矯正で、右0.6、左1.0となっています。
当院での考察
この患者さんは、強度近視による眼底部へのストレスや、仕事柄PCをよく使うことによる作業性のストレスが重なり、眼底部の血行障害や炎症を起こしたものと考えられます。
仕事柄(経営者)、精神的にストレスを感じることも多く、緊張状態により交感神経が過緊張を起こすことも原因の一つかもしれません。
自律神経の一つである交感神経は、毛細血管を収縮する働きがあるため、緊張状態が続くことで、局所的な血行障害を引き起こすことはあるかもしれません。
また東洋医学的な診察である脈診では、かなり体力が消耗している様子が見られました。
こうした症状は、西洋医学的にも体感的にも表れていないということでした。
先ほどの心身のストレスと併せて考えると、心身のストレスをご自身では感じていないため、心身を休めることを選択せず、徐々に体力を奪われていったことも、発病に関係しているかもしれません。
治療方針
・自律神経を調整して眼底部の血流を良くする
・心身のストレスを緩和させる
局所的には、交感神経の働きをブロックすることで、副交感神経を優位にして血流を盛んにするようします。
また全身的にも、自律神経の切り替えがしやすい状態にすることで、上記の目標を達成することが出来ます。
初回の施術
実際の鍼灸治療では、うつ伏せの姿勢での施術で後頚部や背部の凝りを取り除き、血行を促進することから始めました。
使用した鍼は、長さ30mm、太さ0.18mmの日本製メーカーの使い捨て鍼です。
次に仰向けで、目の周辺に浅く鍼を刺しました。
使用した鍼は、長さ15mm、太さ0.1mmの極細の鍼です。
更に仰向けでは、体の弱りに対して、腎機能を高める鍼をしました。
東洋医学では、腎機能は先天的な生命力を司るとされていて、気付かない内に弱っていた体力を補うための鍼をさせて頂いたのでした。
今回の患者さんは、まだ活動期の近視性脈絡膜新生血管であるため、週1回の施術頻度としました。
患者さん本人も、ご家族との話し合いの結果、仕事よりも目の治療を優先しようと決めたということでした。
2回目の施術
初診の3日後、2回目の施術に来院して頂きました。
前回の施術後、2~3時間動けないほどのだるさを経験し、こんな経験は初めてだということでした。
恐らく交感神経の活動が低下し、急激に副交感神経が優位になったせいで、眠気やだるさなどが出たのでしょう。
特に、今までは自覚的な疲れを感じていない状態でしたので、さぞかし驚かれたと思います。
こうした疲れをしっかり感じ取り、そこからしっかりと休息して回復することで、本当の意味で健康になれると思いますので、良かったと思います。
これがいわゆる瞑眩(めんげん)反応というものです。
「心なしか、視野にある歪みが小さくなった感じがする。」ということでしたが、実際にはまだ少し早過ぎるように思います。
早い方でも1か月半程度は、症状の回復にかかるのが、典型的な形です。
ただこうした「感じ」がするというのは、モチベーションアップにも繋がりますので、非常に良い傾向だと思いました。
前回と同様の施術をしましたが、今回の施術では、施術中にしきりに胃腸がグルグルなるのが聞こえました。
胃腸の働きは、副交感神経が優位になると活発になりますので、これも良い傾向です。
また今回は、施術前の時点でも脈がしっかりとしていましので、前回よりも腎臓の弱りは軽いようでした。
足がまだ少し冷たいですが、これも前回の施術後は非常に温かく、人に触られてもずっと温かいと言われたということでした。
3~7回目の施術
3~7回目まで同様の施術をしていましたが、明らかに症状が改善しているというお話でしたので、少し早いのですが再び簡易検査をしてみました。
その結果がこちらです。
左目に見られていた視野の欠損や歪みは無くなり、右側も視野の歪む範囲がほぼ半分になりました。
二つを並べて比べてみます。
この二つの簡易検査画像は、初回カウンセリングの時と約3週間後の画像になります。
通常なら約2カ月程度してから変化が起こりますが、かなり早い段階で変化が起こっています。