脾胃と精神科疾患のお話
脾胃という概念は東洋医学独特の概念ですが、知れば知るほど興味深い概念で、精神科疾患と深い関係があります。
鍼灸治療のような東洋医学的治療を行うには、先ずこうした基本的な脾胃という概念から正しく知るべきです。
では脾胃のお話からご紹介しましょう。
脾胃と精神科症状と様々な疾患
脾胃は共に協力して、消化吸収の働きにより栄養素を体内に取り入れ、エネルギーを生成する臓腑です。
生まれつき備わった生命力に関係する腎を「先天の本」というのに比べ、脾胃のことを「後天の本」といいます。
そのため慢性疾患などのように長期的に体力を消耗する疾患では、脾胃の状態が予後に大きく関係してきます。
脾は思考することに関係が深い臓です。
つまり脾が正常に機能していると思考活動が正しく行われますが、脾が病んでしまうと思考が正しく行われなくなります。
また思考活動を過度に行うと、脾が働き過ぎて傷付いてしまうことがあります。
脾が傷付いてしまうと、精神科症状の中でも抑うつ症状が起こりやすく、同じことを繰り返し考えてしまうようになります。
うつ病と脾の状態は、深い関係があるということのようです。
また脾胃は消化吸収機能と深い関係があるため、過度の思考活動により脾胃の失調が起こると、様々な消化器疾患を起こす可能性もあります。
つまりストレスにより起こる、様々な消化器疾患と深い関係があるということです。
また脾胃を治療することは、精神科症状を軽減することやストレスによる消化器疾患の改善にも繋がります。
当院の臨床では
臨床的にも、脾胃の状態と精神科疾患や精神科症状には強い関連が見られます。
精神科疾患や精神科症状を訴える方に東洋医学的な脈診を行うと、脾胃の問題と診断されることが多く、消化器症状もよく見られます。
脾と精神科症状のことは上でもご説明しましたが、実は胃経と精神科疾患との関連も無視できません。
鍼灸師によっては、胃経と統合失調症の関係を非常に重視する鍼灸師もいますし、古典書にも統合失調症と思われる症状が胃経の熱から起こると書かれています。
「胃の経脈が動じると、顔が黒くなり、よく呻きあくびを多くする。また人目や光を避けて屋内に閉じこもるようになる。更に悪化すると、高いところに上って叫んだり、衣服を脱ぎ捨てて走り回ったりする。」
この症状や内容からすると、統合失調症を思わせるような内容です。
こうした統合失調症に対しては、主に胃経の不調を治療対象として施術を行います。
また胃の経絡は歯茎を通っているためか、歯茎の腫れなどとも関係が深いのですが、たまに歯科治療を受けた方の中に精神科疾患を発病する方がいらっしゃいます。
西洋医学的には関連は不明ですが、東洋医学的には関連深いもののようです。
私が以前施術していた患者さんも、歯科治療を受けた後から体調不良になり、統合失調症を発病したという方がいました。
実際の原因は不明ですが、歯科治療を受けていた時期と統合失調症の発病時期が重なることは、あることのようです。
私個人の体験というよりも、臨床をそれなりに積んでいる鍼灸師なら、同様の体験をしているかもしれません。
胃経の実熱を思わせる症状ですが、実際には完全なる実熱というのは少なく、虚証を思わせる徴候があることが殆どです。
そのため全体の状態をしっかり見て虚実を見極め、施術をする必要があります。
実際の臨床では鍼灸治療単独で治療を進めるより、急激な強い症状に対しては必要最低限の投薬を行う方が効果的です。
来院される患者さんの中には、西洋医学に不信感を抱えている方が少なくありませんが、鍼灸治療は長期的には精神科疾患に対して効果的でも、投薬ほどの短期的な効果の切れ味はありません。
投薬の長期服用が心配な方にとって、鍼灸治療は投薬量の減量や断薬に向けた武器になりそうですが、くれぐれも使い方には気を付けなくてはいけません。
そういう意味でも、鍼灸治療を精神科疾患の治療に使うなら、臨床経験が豊かな鍼灸師を選ぶべきですし、減薬や断薬には注意が必要です。