大阪日本橋 
眼病の鍼灸
鍼灸ひより堂

大阪日本橋の鍼灸ひより堂です。
当院では現代医学では治療法がないと言われてしまった眼科疾患に対して、鍼灸治療によるアプローチをしております。
来院される患者さまの約95%は眼科疾患や眼科症状にお悩みの方々です。

網膜色素変性症と鍼灸治療

網膜色素変性症とは

 

 網膜色素変性症は、眼の網膜に存在する視細胞が進行性に変性をする、遺伝性の眼科疾患です。

視細胞には、杆体細胞と錐体細胞という2種類の細胞がありますが、網膜色素変性症では主に杆体細胞が障害されます。

杆体細胞は、明暗を感じる細胞ですので、杆体細胞が障害されることで、薄暗いところで見えにくくなる夜盲症状※1が表れます。※1 夜盲症状:暗いところで見え難くなる症状

また杆体細胞は、網膜の中心よりも外側に多く存在するため、周辺視野が先に奪われてしまった結果、視野狭窄が表れます。

 

 こうして網膜色素変性症の特徴である、夜盲症状と視野狭窄が緩やかに出現してくることが多く、多くは中心視力は保たれることが多いのも特徴です。

ただし、症状の進み方には個人差が大きく、急激に症状が進行する方もいらっしゃいます。

現在では、症状の進行が速いか遅いかを遺伝子検査で知ることが出来ますので、大学病院等である程度の予後を知ることが出来ます。

症状進行.png

症状が進行すると錐体細胞が障害されることで、色彩感覚が奪われたり視力が著しく低下することもあり、進行が速い人では存命中に失明する方もいらっしゃいます。

一般的に、早い時期に発病すると重症化しやすく、発病が遅く緩やかな方では、生涯に渡って視力を維持することも出来るため、早々に社会生活をあきらめる必要はありません。

 

 網膜色素変性症で注意が必要なのは、網膜色素変性症に伴う続発症(併発症)についてです。

網膜色素変性症を患った方は、白内障や緑内障、黄斑(網膜)浮腫を発病しやすいことが分かっています。

そのため網膜色素変性症に対する明確な治療法がないからと、眼科への通院を止めてしまうと、続発症の治療機会を失うことになりかねません。

緑内障や黄斑部浮腫については明確な治療法が存在するため、網膜色素変性症を患ってしまった方は、定期的に眼科への受診を続けて頂き、適切な治療機会を失わないようにして下さい。

 

 鍼灸治療に関しても、症状の進行を緩やかにする作用はありますが、視神経や視細胞を再生することは出来ません。

そのため鍼灸治療を出来るだけ早い時期に受けて頂くことで、網膜を循環する血流量を増やし、症状の進行を防ぐ必要があります。

また既に失われた機能を取り戻すことは出来ませんが、続発症である緑内障や黄斑部浮腫も鍼灸治療の適応であることを考えると、続発症を防ぐ働きもあると思われます。

 

網膜色素変性症の西洋医学的治療

 

 今のところ、明確に網膜色素変性症の発症や進行を予防する効果があるものはありません

ただ人によっては効果が見られるものとして、対症療法的な投薬、サングラス(遮光眼鏡)の着用、ビタミン剤の服用などが挙げられます。

IPS細胞の移植は、将来的には期待出来ますが、実用化までにはまだかなり時間が掛かりそうです。

 また網膜色素変性症の方は、白内障や緑内障になりやすいため、定期的に眼科を受診して、現状の確認をしておくことをお薦めしています。

 

網膜色素変性症の私見

-ここからは一鍼灸師の私見が含まれます-

 

 網膜色素変性症は、遺伝性の眼科疾患であるため、進行を予防することは出来ないとされていますが、鍼灸治療には一定の進行予防効果があるようです。

当院に長年来院されている患者さんには、簡易な視野検査を受けて頂きますが、10年以上来院されていても、視野狭窄が殆ど進行していない方もいらっしゃいます。

眼科疾患への鍼灸治療では、眼底部での循環改善が最も大きな働きですが、それは網膜色素変性症の進行予防にも有効なようです。

今までに来院された網膜色素変性症の方に対する鍼灸治療では、鍼灸治療開始から一定期間は視力や視野の向上が見られています。

その後、そうした変化が落ち着いてからは、進行予防が主たる目的になっていきます。

 

 これをグラフで表すと、下のようになります。

 

治療効果パターン.png

 

 パターン1の場合には、鍼灸治療を開始後も同じ傾きで視力の低下が起こるパターンです。

視力や視野の向上は殆どの方で見られるため、一旦改善した視力や視野が無治療の人と同じように低下していきますが、一旦改善した分だけ、同じ時点では若干状態が良いことになります。

 

パターン2の場合が、鍼灸治療が最も奏功したパターンです。

視力や視野の低下は、眼科疾患を持たない人でも、年齢と共に必ず訪れます。

そのためグラフとしては右肩下がりになりますが、無治療群と比べると傾き自体が緩やかで、視覚障がいも最低限に抑えられています。

当院に10年以上来院されている、50代中盤の網膜色素変性症の方は、今現在、このパターンを示しています。

 

 網膜色素変性症を患った方の中には、十分に社会生活を送れるにも関わらず、病気の進行を気にする余り、過剰に社会参加を制限されている方もいらっしゃいます。

早くから症状の進行ばかりを気にするため、前向きな気持ちが持てなかったり、自分に対する自信が持てないことも原因の一つのようです。

障碍者として自分なりの生活を送ることは大事なことかもしれませんが、余りにも生活を制限しすぎてQOLを下げないよう、出来るだけあなたのお手伝いを出来ればと、個人的には考えています。

 

網膜色素変性症の鍼灸治療

 

 基本的には網膜色素変性症に対する鍼灸治療は、他の眼科疾患に対する鍼灸治療と変わりません。

 

目的としては以下の2つです。

 

1.視機能を出来る限り上げる。

2・視機能低下を防ぐ。

 

1に関しては、最初の3~6か月を視機能の底上げ期間として、まだ失われる前の視細胞や視神経の能力を引き出し、視力や視野の改善に努めます。

通常は、鍼灸治療開始後の3~6か月間、個人差はあるものの、大抵の方で視機能の向上が見られます。

その後は頻度を減らしながら、視機能の低下を出来るだけ緩やかになるように、眼の周囲の循環や全身の健康管理の為に鍼灸治療を施します。

方法も他の眼科疾患同様ですが、視細胞に栄養や酸素が十分に行き渡る様に、網膜の血流を増やす施術を行います。

また眼科疾患が悪化する原因になる、心身のストレスに対しても、鍼灸治療で対応していきます。

一つ一つは大したことがないようでも、長い年月を掛けて、ストレスは徐々にそして確実に影響を与えます。

そうしたストレスを、鍼灸治療で最小限に抑えます。

 

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 通院期間に関しては、出来るだけ長く通院して頂くことが一つの目標ですが、その方の目的に合わせて調整して頂ければと思います。

 

例えば、

「一度自分の能力を引き出したい」⇒0.5~1年

「子供が大きくなるまで続けたい。」⇒0.5~20年

「仕事を定年まで続けたい。」⇒10~20年

「出来るだけ人に頼らず生活したい。」⇒∞

 

などのように、具体的な目標を立てて来院して頂いても結構ですし、出来るだけ続けたいと漠然と目標を立てずに来て頂いても結構です。 

取り敢えず一旦底上げをしておけば、その分だけは何もしないよりも良いはずですから、一度鍼灸治療を体験して頂ければと思います。

 

もう少し追加のご説明

 

 網膜色素変性症は、遺伝性網膜ジストロフィー(IRD)の一種です。

遺伝性網膜ジストロフィーでは、他の要因の中でもとりわけ、免疫細胞(ミクログリア、マクロファージなど)の活性化、或いはケモカインやサイトカインなどの炎症性分子の影響を受けます。

こうした炎症分子が網膜色素細胞の細胞死に影響を与え、視力や視野を奪っていきます。

そのため、こうした炎症を抑えることが、網膜色素変性症の予後にとっては大事なことです。

 

 長期間かけて網膜色素細胞に慢性的な炎症を起こしていると、まず最初に桿体細胞が障害され、その後徐々に錐体細胞にも影響が及びます。

桿体細胞は黄斑の周辺部に多く、錐体細胞は黄斑の中心部に多く存在するため、最初は明暗を担当する桿体細胞が障害されることで夜盲症や視野狭窄がが起こります。

次いで錐体細胞が障害されることで、徐々に中心視力や色彩も奪われていき、重症になると失明状態となります。

 

こうした炎症の影響は、局所的な網膜炎症のみならず、全身の炎症によっても影響を与えると言われています。

そのため、全身の健康管理がとても大事になります。

 

 また炎症には様々な免疫関連物質が影響を与えますが、活性酸素種も炎症に関連する物質の一つです。

そのため、抗酸化作用や抗炎症作用のある物質(抗酸化物質)を継続的に摂取することで、ある程度症状の進行を和らげることも試みられています。

例えばビタミンA/ベータカロテン、DHA(ドコサヘキサ塩酸)、ニルバジピン(カルシウムブロッカー、高血圧治療剤)ルテイン、ゼアキサンチン(カルテノイド)などのサプリメントはそうしたものです。

更に網膜の炎症により起こった浮腫に対して、ダイアモックス、トルソプト、エイゾプト(炭酸脱水酵素阻害剤)などの薬剤が使用されることもあります。

 

 一方鍼灸治療には、血管を拡張して循環障害を改善する作用と、炎症により開き過ぎた血管を収縮させる作用も併せ持っています。

つまり丁度いい加減に調節するといった作用を持つようです。

そのため炎症により浮腫を起こしている部分には抑制的に働き、循環障害により活性酸素が増えてしまった部分に関しては、血管を弛緩させて血流を増やすように働きます。

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こうした一見すると矛盾した働きのお陰で、網膜色素変性症のような、遺伝子的な要因で炎症や循環障害を起こすような眼科疾患にも、効果的に働きのではないかと考えています。

 

 また当院では、遮光眼鏡やサングラスなどを作成する眼鏡屋<リンク>さんをご紹介することも出来ますので、少しでも網膜色素変性症の方が快適に暮らすことが出来るように、お手伝いをさせて頂きます。

アッシャー症候群の方に対しては、私が未熟なため、1型で症状が進行した方に関しては、コミュニケーションを取ることが出来ません。

症状が未だ進行しておらず、筆談等が出来るようでしたら、鍼灸治療をすることは可能です。

出来るだけ早めに鍼灸治療を開始して頂いた方が、残存機能を維持出来るかと思いますので、是非お試し下さい。

 

網膜色素変性症に影響を与える血流

 

 完全に明らかになっていない部分もありますが、網膜色素変性症の症状進行と血流に大きな関係があることは、多くの研究結果で示されています。

網膜色素変性症では、網膜の色素細胞(桿体細胞)が徐々に障害され、やがてそれ以外の視細胞も障害されます。

 

 これらの網膜細胞が存在する網膜は、網膜循環と脈絡膜循環という2つの別々の循環から栄養素と酸素を受け取っています。

網膜は、栄養素や酸素が十分に受け取れない状態になると、細胞のアポトーシスが促進され、網膜色素変性症の症状である視野狭窄や夜盲、視力低下は進行します。

<参考論文:A Brief Review on the Pathological Role of Decreased Blood Flow Affected in Retinitis Pigmentosa>

 

 眼球全体の血流の内、網膜には約10%なのに対して、脈絡膜には約90%の血流が集中しています。

さらに脈絡膜の血流は、ブルッフ膜を通して網膜の色素細胞に流れ込み、網膜を栄養する役割をしています。

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また視覚において重要な網膜組織へ血流支配で言うと、網膜の内層(硝子体側)2/3は網膜血管、視細胞を含む網膜外層(脈絡膜側)1/3は脈絡膜血管に支配されています。

つまり網膜色素変性症には、脈絡膜血管の働きが大変重要であるということです。

 

 網膜血管は自律神経系の支配を受けおらず、全身の自律神経系の活動とは独立しているそうです。

さらに血圧の変動に応じて血流量を一定に保つ自己調節機構も備わっているとされています。

一方脈絡膜血流は交感神経系の支配が強く、交感神経刺激により眼底部の脈絡膜血流は減少し、副交感神経刺激で増加するとされています。

<参考:眼底循環に加齢や生活習慣が与える影響 

    林直亨,長岡泰司 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院,日本大学医学部)

 

 鍼灸治療には、自律神経の調整作用がありますので、交感神経刺激により血流量が減ってしまっている場合、副交感神経を優位に導くことで、脈絡膜の血流を増やす働きがあります。

脈絡膜に豊富な血流を確保出来れば、網膜色素変性症による視細胞のアポトーシスを最小限に減らすことにも繋がります。

別の項目でご説明した、フラマー症候群の治療とも関連して、網膜色素変性症の積極的治療として応用出来るということです。

2024.11.21 Thursday