網膜色素変性症の海外論文紹介【統合医療と網膜色素変性症】
網膜色素変性症(Retinitis pigmentosa)に対する総合的治療
基本的に難病の概念は国内外を問いません。
眼科疾患の難病である網膜色素変性症は海外でも多くの患者を抱えており、日本国内同様にこれといった治療法が確立していません。
遺伝子治療やISP細胞による治療が試みられていますが、まだ成果というには早い段階です。
今回ご紹介する論文は、アメリカで行われた鍼灸治療などの統合医療による網膜色素変性症の治療についてのものです。
A Patient-Centered Integrative Approach Improves Visual Field Defect: A Case Report
Lan Kao 1, Ka-Kit Hui 1 2, Edward Hui 1 2
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PMID: 34104579 PMCID: PMC8168048 DOI: 10.1177/21649561211021081
<外部リンク:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8168048/>
では論文の内容を抜粋してご紹介します。
「女性患者は、鍼治療、カッピング、トリガーポイント注射、セルフケアとライフスタイルの変更に関するガイダンスを組み込んだ統合的な東西医療アプローチにより治療されました。眼疾患は治りませんでしたが、さまざまな客観的な眼科検査によって視覚の改善があり、患者は運転免許証を更新することができました。視力の改善は、治療介入の3年後の追跡検査で安定したままでした。首の痛みの改善、生理不順の改善、不安感の軽減など、様々な自覚症状も改善されました。」
とあります。
ではこの論文をもう少し詳細に分析していきます。
総合的な治療が効果を挙げた
この女性患者さんは、発病前に過度のストレスを感じていたことや、喫煙習慣があったことが記されています。
ストレスや喫煙は、多くの眼科疾患の発病原因や悪化原因になります。
そこで先ずは禁煙をして、更なる悪化を防ぎながらそれ以外の問題にも取り組んだようです。
上の紹介文にあるようにこの患者さんには、「鍼治療」「カッピング」「トリガーポイント注射」「セルフケアとライフスタイルの変更」を行ったとあります。
トリガーポイント注射は、あまり聞きなじみのない治療かもしれませんが、肩こりなどでは日本でも行われている治療です。
トリガーポイントと呼ばれる反応点に対して麻酔薬や消炎剤を注射して、症状の改善を図る治療法です。
また禁煙を始めとして、生活習慣やライフスタイルの変化は、多くの眼科疾患の患者さんに対してとても大事なものです。
季節に応じた生活や一日のリズムをしっかり付けた生活は、自律神経のバランスを整えます。
十分な栄養や抗酸化作用のあるものの摂取は、視神経や網膜の炎症や変性を防ぐ作用があります。
こうしたことを継続して行うことで、この論文にある患者さんは視力や視野の向上が見られ、それ以外の諸症状も改善したまま、治療開始から3年後も良い状態を維持したということです。
こうした鍼灸による症状改善と維持は、当院でも同様に10年以上経験しています。
網膜色素変性症と鍼灸治療に関しては、通院し続けなくてはいけないという課題はありますが、他に希望が持てない眼科疾患の患者さんにとっては大きな存在になるはずです。