眼科疾患と喫煙
喫煙は眼科疾患に関係するのか
世界的に公的な場所での禁煙が当たり前の時代になり、喫煙者は益々肩身が狭いことでしょう。
喫煙者と言えば肺がんや慢性呼吸器疾患との関連が有名ですが、実は眼科疾患とも強い関連性があります。
例えば加齢黄斑変性症では、喫煙者は非喫煙者と比べて3倍の確率で発病することが分かっています。
加齢黄斑変性症は、世界で1億3500万人が罹患すると言われており、日本国内でもここ10年程の間に、その発病者が2倍になったといわれる眼科疾患です。
加齢黄斑変性症は悪化すると失明に至る病気であるため、出来ることなら発病したくない疾患ですが、その発病率が3倍になるということですので、眼科疾患に喫煙は禁物であることがお分か頂けると思います。
これ以外にも、白内障では発病率が約3倍になることが分かっていますし、緑内障においても喫煙との相関が見られます。
理論的にはほぼ全ての眼科疾患が、喫煙と何らかの相関関係を持つのではないかと思われます。
なぜ喫煙と脈絡膜の循環障害
まずは眼の中で、最も関連が深いと思われる部位をご覧下さい。
これは眼底部にある、脈絡膜から網膜にかけての拡大図です。
脈絡膜には眼球全体の9割の血流が通っていて、視細胞がある網膜にも、脈絡膜から血液を通して栄養や酸素が供給されています。
また脈絡膜と網膜の境目にあるブルッフ膜にも、脈絡膜から栄養や酸素が供給されています。
喫煙という行為は、こうした血液を豊富に供給する場所に、血液を通して有害物質を届けることになります。
上でご説明した加齢黄斑変性症に限らず、近視性脈絡膜新生血管や中心性漿液性脈絡網膜症にも、喫煙の影響は表れると思われます。
脈絡膜から網膜へは、毛細血管を通して血液の供給が行われますが、喫煙者の場合には、血管の収縮作用があるニコチンの作用により血流は悪化し、循環障害が起こりやすくなります。
循環障害が慢性化すれば、新生血管や浮腫を作る原因にもなりますので、こうした脈絡膜から網膜にかけての変性が起こるのも仕方ありません。
そのため喫煙は、多くの網膜疾患の原因になる可能性があります。
甲状腺眼症と喫煙
甲状腺眼症の発病には、喫煙(副流煙含む)が大きく関係することが知られています。
その発症率は、非喫煙者と比べてバセドウ病で3.3倍、甲状腺眼症に至っては、4.4倍とされています。
甲状腺眼症の場合には、血行障害という理由以外にも、喫煙の影響があるようです。
甲状腺ホルモンの分泌に与える影響も大きく、特に女性の場合には、喫煙が甲状腺疾患に与える影響は大きくなります。
多くの甲状腺専門病院では、禁煙を前提として治療が行われているため、甲状腺眼症の治療において禁煙は必須です。
女性のバセドウ病や甲状腺眼症の中には、喫煙(副流煙含む)をしたせいで、発病や悪化をしたものが含まれると思われます。
また眼球突出度は喫煙の本数に比例するという研究結果もありますので、喫煙や受動喫煙は電子タバコも含めて注意をして下さい。
末永く視力を保つために
先天的な目の障害は勿論大変ですが、後天的に視力を失うことはそれ以上の苦痛です。
また視力を失わないまでも、「このまま視力を失うかも…。」と日々ストレスを抱えることで、前向きな思考が出来なくなる方はとても多いのです。
そのため喫煙習慣は単に嗜好品楽しんでいるのではなく、依存症であるということを自覚しないといけません。
特に眼科疾患を抱えている方や、ご家族に眼科疾患を抱える方がいる方は、特段の注意が必要です。
あなたやあなたの家族の禁煙が、未来への希望をもたらすこともあります。
逆に、あなたやあなたのご家族の未来を奪うことがあることを、ぜひ知って頂きたいと思います。