特発性ブドウ膜炎の鍼灸症例 10代男性 大阪市在住
患者:大阪市在住 10代 男性
病名:特発性ブドウ膜炎(原因不明のブドウ膜炎)
症状:目の痛み、充血、頭痛、微熱
【経過】
・頭痛、微熱(37.8℃)が2~3日続いていたため、総合病院を受診。
・眼科の検査にてブドウ膜炎があることが分かった。
・ステロイドの局所注射が試みられたが、症状が治まらなかった。
・その後、2週間経過し、やや炎症は軽減したが、依然として頭痛や肩こり、脈絡膜の浮腫が継続している。
・普段はコンタクトレンズを使用しているが、眼内注射をしたため、現在は眼鏡を使用。
・インターネットで鍼灸が眼科疾患に効果があることを知り来院。
【初診】
初診時は、強膜から注射をした際に内出血が起こり、白目が真っ赤な状態でした。
最初の症状が出てから既に1か月が経過し、最強の抗炎症剤であるステロイド注射を受けたにも関わらず、炎症症状が治まらないことで、かなり不安な様子でした。
来院時は新高校2年生でしたが、コロナ禍にあったことで休校となり、自宅待機をしている状態でした。
本来なら、クラブや勉強に忙しい時期だったでしょうが、学校にも行けず、しかも眼科疾患を抱えたことで、非常に大きいストレスを感じていたようです。
また首や肩の凝り症状が強く、頭痛や眼痛も抱えていました。
その一方で手足はとても冷たく、自律神経にも問題を抱えているようでした。
ブドウ膜炎を起こしている側の視力に低下が見られ、矯正視力でも0.3になっていました。
光彩と毛様体、そして脈絡膜を指して、ブドウ膜といいます。
その中でも、ブドウ膜を構成する脈絡膜は、網膜に栄養や酸素を送るために、血管が豊富に通っており、炎症を持ちやすいところでもあります。
今回の場合には、特発性ブドウ膜炎ということですので、炎症の原因が不明で、膠原病などの検査を行いましたが否定されました。
そこで対症療法としてステロイドを局所に注射したのですが、こちらも効果がなくお手上げ状態になっていたというわけです。
【鍼灸治療】
私としては、ブドウ膜炎の解消は勿論ですが、自律神経の乱れやコロナ自粛でのストレスを軽減することも、施術の目標としました。
なぜなら、今回のブドウ膜炎の原因の一端に、こうした自律神経失調症やストレスの影響があるのでは無いかとも考えたためです。
また身体症状が強く出ているため、頭痛や肩こり、眼痛の解消に関しても、優先的に治療目標としました。
この患者さんの施術では、まずはうつ伏せから鍼灸治療を始めました。
後頚部の凝りや肩の凝りを治すために、局所に軽く響かせる程度の鍼を施術しました。
使用した鍼は、セイリン社のステンレス製使い捨て鍼で、太さ0.18mm 長さ30mmのものです。
コリのある場所はとても分かりやすく、見た目にもよく膨らんでいました。
鍼を刺してから10分程度寝かせ、鍼を抜いた後仰向けに寝て頂きました。
次に仰向けて寝て頂いて、目の周囲と手足、そして頭に鍼を刺しました。
目の周囲の鍼は、長さ15mm 太さ0.1mmの極細の短鍼です。
手足と頭には、長さ15mm 太さ0.16mmの鍼を使用しました。
鍼を刺して10分ほど寝て頂くと、手足が暖かくなってきましたので、初回の施術を終了しました。
2回目の施術(初診から1週間後)が終わったところで、眼科の定期検診があり、脈絡膜の浮腫が軽減していることが確認出来ました。
視力も回復傾向で、0.3から0.6に回復していました。
その後、週2回ペースで計11回の施術を行い、眼科の定期検診はあるものの、学校再開のタイミングとも合わせて終了としました。
【考察】
多くの眼科疾患では、原因不明で発病することが多いように思います。
膠原病の続発症として発病することも含めて、多くの眼科疾患では原因が特定出来ません。
原因が特定出来ないため、対症療法的な治療を続けるしかないわけです。
そんな中で、西洋医学では治療が出来ないものに対して、鍼灸治療が一定の効果を挙げることを見ると、やはり自律神経の失調や、それに伴う循環障害が眼科疾患の一因になっているのではないかと思われます。
たかが循環障害(血行障害)と思われがちですが、末梢循環は栄養や酸素を細胞や組織に運搬し、老廃物や活性酸素を取り除くためにはとても重要です。
栄養や酸素が上手く運ばれなければ、網膜や視神経は健康を保つことが出来ません。
また老廃物が排出されなかったり、活性酸素が除去出来なくても、網膜や視神経は変性や萎縮をしてしまいます。
そのため循環障害は、眼科疾患にとって大敵なのです。
鍼灸治療は、自律神経を調整する働きがあるため、毛細血管の収縮や拡張を適切に行う助けになります。
さらに鍼灸治療は長く継続して受けても副作用が無く、10年以上も続けて鍼灸治療を受けて頂いている方もいらっしゃいます。
基本的には、投薬治療の方が治療効果のキレが良いため、短期的な使用での治療効果は、鍼灸は投薬に敵いません。
ところが今回のように、投薬よりも鍼灸治療の方が即効性が高いことがあります。
こうした例は、甲状腺眼症での眼球突出時にも見られ、ステロイド使用でも治まらなかった眼球突出が、鍼灸治療で治まることもあります。
また長期的な効果では、西洋医学的治療に比べて鍼灸治療の方が高い傾向があるため、結果的には鍼灸治療の方が高い臨床効果になるのではないかと思われます。