正常眼圧緑内障の鍼灸症例 府内在住 50代男性
患者:府内在住 50代後半 男性 会社員
病名:正常眼圧緑内障
症状:視野欠損 視力低下 眼精疲労 首や肩の凝り
【経過】
・40代の頃に正常眼圧緑内障を発症し、眼科にて点眼薬で継続加療中。
・現在の眼圧は左右13前後で安定しているが、視野狭窄、視力低下ともに進行。
・特に右目の症状が進行しており、ほぼ視力が出ない状態。
・来院の2~3か月前から急激に眼精疲労を強く感じるようになった。
・慢性の肩こり、首こり、腰痛などもある。
【初診】
来院時には、眼精疲労を強く訴えていらっしゃいました。
目を使った後が特に酷く、痛みを感じるほどに眼精疲労が強くなっているようでした。
眼精疲労などの不快症状が少しでも軽減すればと考えてネットで検索をしたところ、当院HPを見付けて頂いたそうで来院して頂きました。
初診時の検査では、患者さんのおっしゃる通り右目の症状が進行しており、ほとんど左目だけで見ている状態でした。
そのため視野全体の歪みがあり、目を使う仕事をした後の眼精疲労がかなり辛いようです。
この患者さんのように正常眼圧緑内障では、眼圧が正常域にあっても症状が進行していきます。
発病から20年絶たずして右目は矯正視力が0.1を切り、矯正でも視力が出ない状態になってしまいました。
そのため症状の進行を少しでも抑えながら、願わくば症状改善が出来るように施術をすることにしました。
【鍼灸治療】
正常眼圧緑内障の鍼灸治療は、眼底部での循環障害が無くなるように、施術を行います。
脈絡膜は網膜に栄養や酸素などを提供するために、非常に血管が多く存在する部位です。
この脈絡膜で循環障害が起こると、網膜に十分な栄養がいかないため組織がぜい弱化する原因になります。
網膜やその周囲にある脈絡膜、ブルッフ膜がぜい弱化すると、網膜から視神経が出入りする場所である視神経乳頭部が拡大し、視神経への負担が大きくなります。
そのため眼圧の管理は点眼薬により行いながら、網膜や脈絡膜、ブルッフ膜などの健全性を保つために、循環障害を取り除くわけです。
こうした眼底部の循環障害を改善するために使用する経穴は、後頚部、目の周囲、そして手足に点在しています。
今回の患者さんにおいても、同様のツボを使用して鍼灸治療を行いました。
<うつ伏せ>
天柱、風池、天髎、大杼、肺兪、心兪、厥陰兪、膈兪、肝兪、胆兪、三焦兪、腎兪、大腸兪などから適宜取穴して、8~10本程度の施術を行いました。
刺鍼後は、10分程度そのまま置鍼して休んで頂きます。
うつ伏せでの施術で大事なことは、しっかりと全体のバランスを見て施術し、体が全体に整うように施術することと、筋緊張をしっかりと緩めることです。
東洋医学では、標治法(対症療法)と本治法(根治療法)に分けて施術を行いますが、背面は標治法を行いやすい部位です。
そのため不快症状などは、あらかじめうつ伏せでしっかり取り去るのが秘訣です。
続けて行われる仰向けでの本治法前に、標治法で下準備をしておくわけです。
漢方的な考え方の中に、「先表後裏(せんぴょうこうり)」というものがあります。
これは感染症に罹ったの時に、先に勢いのある症状を治療してから、本体的な治療を行うという意味です。
これと似たような概念で、先に患者さんが感じている辛い症状を取り去り、その後本質的な体の治療を行うのです。
<仰向け>
仰向けでは、患部に最も近い目の周囲の施術と、本質的な治療である本治法を行います。
目の周囲にはたくさんの経穴がありますが、その中から最も反応が出ている部位を選んで、両側で10本程度の鍼を行いました。
太陽や絲竹空、攅竹は反応が出やすい部位ですので、しっかりと響かせて施術します。
場合によって刺し方を変えながら、深さや角度を調整して施術しました。
本治法は手足の末端部にある経穴を使用して、短く細い鍼でごく浅くだけ刺して施術しました。
本治法は、1~3本程度の鍼で十分に治療効果を得ることが出来ます。
この時には、東洋医学的脈診をしながら、1か所ずつ変化を確認して行いました。
<本治法の例:画像は少陰腎経の照海穴を使用>
<1か月後>
こうした施術を約1か月間続けた結果、視野は変化がありませんでしたが、右側の視力に変化が見られました。
初診の際には0.1の視力検査票が見えなかったのですが、0.1の視力検査表がしっかりと確認出来るようになっていました。
ご本人の自覚的にも、見えている景色の歪みやねじれが無くなり、非常に見やすいということでした。
肩凝りなどは仕事の内容により再発しますが、強い眼精疲労はかなり軽減して作業が出来るようになったそうです。
現状では1か月目の治療効果ですから、まだまだ本格的な変化とは言えません。
治療が始まったばかりの変化ですから流動的ではありますが、治療の第一歩というところです。