レーベル病の鍼灸治療 府外在住 50代男性
患者:府外在住 50代男性
病名:レーベル病
経緯
・当院初診の約3~4カ月前に発病したと思われる。
・その後、急激に視力、視野共に低下。
・提携治療院である千秋鍼灸院の紹介で来院。
・週1回施術の予定で来院。
来院時、同伴の方が付き添いでなければ、通い慣れたところ以外は歩けない状態でした。
大学病院で遺伝子検査の結果、レーベル病と診断されましたが、これといった治療法がないまま経過観察となりました。
レーベル病の中には、急激な回復を見せるタイプのものもありますが、そうした方は多くが20~30代で発病した方で、50代での発病では重症例が多いとのことです。
唯一効果的ではないかという報告のある、イデベノンでの治療を受けましたが、効果と呼べるものはありませんでした。
そこで鍼灸治療に一縷の望みをかけて、眼科鍼灸で有名な千秋鍼灸院を訪れたそうです。
当院に来院時の検査でも、視力は0.1を大きく下回った状態でした。
色覚や明暗は感じるものの、未だ症状の底が見えない状態で、不安感ばかりが強くなっていました。
レーベル病は遺伝子に変異を来たす疾患ですが、非常に特殊な病態を持っており、急激に症状が悪化した後、症状が下げ止まる底の期間が一定あり、人によってはその後、症状がほぼ正常にまで回復します。
ただ、症状がどんどん悪化した結果、失明状態となる方が多いのも事実です。
下げ止まりる底までの期間がどの程度なのか、底の期間がどの程度なのかは、人にもよりますのでハッキリ言えませんが、底の期間が約半年程度なのは分かっています。
今回の場合は、来院時にまだ視力低下が見られたことから、底の期間ではないことが分かりました。
そこで来院時の目標としては、出来るだけ症状の底を浅くすること、そして底の期間が終わった後、回復が速やかに行われることを目指しました。
【初診】
初回カウンセリングの結果、精神的な落ち込みが酷く不安神経症のような状態になっていらっしゃいました。
不眠症状が強く、便秘や冷え症などの自律神経失調症状も出ていたため、投薬治療も受けている状態でした。
これは多くの眼科疾患の方も経験することで、将来に対する不安感がこうした状況を生むようです。
50代まで晴眼者として社会生活を過ごしてきた方が、わずか数カ月で社会的失明状態になったのですから仕方がないことです。
そこで眼科症状の回復と共に、自律神経症状に対する施術も行うことにしました。
眼科症状に対する施術としては、従来当院で行っている後頚部や目の周囲への浅い刺鍼を行い、自律神経に対する施術としては腹部や背部、手足の施術も加えました。
週1回を目安に通常の鍼灸治療を5カ月行い、その後過去の症例を参考にしてパルス通電を加えました。
パルス通電では後頚部や頭部を対象にしました。
この時点では既に眼科的には症状が底の期間でしたが、心理的不安感からかどんどん色覚が薄れていくということでした。
その後、同様の施術を加えましたが、3カ月経過した頃、眼科的にやや改善の傾向が見られるということでした。
いわゆる底の期間が終わり、回復期が訪れたと思われるということです。
その後、更に2カ月が経過する間には、光を明るく感じるようになり、やや映像の輪郭が分かるようになってきました。
また仕事の上でも大きな変化が起こりました。
レーベル病を発病以来、対面での接客をされていなかったそうですが、久し振りに接客での業務をされるようになったとのことでした。
将来に対する大きな不安感に圧し潰されてしまっていた患者さんが、今までは出来なかった業務に挑戦し、投薬も止めることが出来たのです。
この患者さんは、現在も更なる回復を目指して施術中です。
レーベル病は非常に難しい特殊な眼科疾患ですが、治療法の選択肢がなく、鍼灸治療といえども確実に効果が出るというものではありません。
しかも病期が長いため、治療効果が出るかどうかも、長期間の経過を見なくては分かりません。
その間の治療費も大きな問題になるでしょうし、何よりもその間の治療意欲を保つのというのが至難の業です。
今回の症例では、私の施術以上に、長生き期間に渡り通院に付き添って頂いたご家族の支えや、弱音を吐きながらも施術を受け続けて頂いた、ご本人の努力が大きかったのではないかと思います。