滑車神経麻痺による複視に対する鍼灸症例
知らない内に首を曲げて生活をすることに
患者:府内在住 40代男性
病名:滑車神経麻痺による上斜筋の運動障害
症状:複視(物が二重に見える、首の歪み)
経過と初診
当院に来院する10日ほど前から、物が二重に見えるようになってきた。
首を真っすぐにしていると二重に見え(複視)、右に傾けると更に複視が悪化し、左に傾けると物が重なって正常に見える。
そのためか無意識に首を左に傾ける癖が付いたようで、来院時には首が完全に左側に傾き、それに従って背骨全体が側弯している状態でした。
眼科を受診したが、眼球運動にはあまり大きな変化がないと言われたそうです。
その他の症状が無いことから、ビタミン剤のみの処方を受けて経過観察となりました。
当院の初診でも眼球運動に大きな障害は見られないようでしたが、症状から推測すると滑車神経麻痺だと思われ、その結果外眼筋の一つである右上斜筋の運動障害を起こしたようです。
外眼筋の麻痺は、麻痺を起こす筋肉によって症状が変わる為、ある程度の予想が出来ることが特徴です。
今回の滑車神経による上斜筋の麻痺では、通常は眼球の下転・内方回旋作用が障害されて上下・回旋斜視が起こりますが、この患者さんでは目立った症状は見られませんでした。
ただもう一つの特徴として現れる、頭を健側(障害されたない方)に傾けて複視を避ける姿勢が見られたため、滑車神経麻痺による上斜筋の運動障害だと予想しました。
外眼筋麻痺を起こす原因は様々ですが、明らかな神経損傷が無い場合には、神経に栄養を送る血管が何らかの原因で循環障害を起こし、その結果神経麻痺を起こすことが多いようです。
また糖尿病などを持病として持っている場合には循環障害が起こりやすいため、こうした神経障害が起こりやすくなります。
この患者さんの場合には、境界域ではあるものの明確な糖尿病ではありませんでしたが、一因としては糖尿病予備軍であることも原因の一つかもしれません。
鍼灸治療
今回の鍼灸治療の目的は、循環障害を改善することで、滑車神経の機能を回復することです。
そのため解剖学的な鍼灸配穴と東洋医学的な鍼灸配穴を用いて施術を試みました。
<基本配穴>
天柱 風池 天髎 厥陰兪 膈兪
太陽 攅竹 四白 陽白 太衝
本症は急性症状であることから、週2回の施術を行うことになりました。
2週目からは、うつ伏せ時に天柱ー風池間でパルス通電を行い、仰向けでは陽白と頭部でパルス通電を行いました。
約1カ月経過する頃には複視が無くなり、首の歪みも無くなりました。