外転神経麻痺に対する鍼灸症例 市内在住 50代女性
患者:市内在住 50代女性 専門職
病名:特発性外転神経麻痺
症状:物が二重に見える(複視)
経過
・当院を初診する4日前から物が二重に見えるようになった。
・近くを見る時には軽減するが、遠くを見ようとすると症状が悪化する。
・物が二重に見える為、乗り物酔いのような状態になる。
・左外側を見ても症状が悪化する。
・近所の眼科を受診。
・症状が余りにも辛いため総合病院を受診しMRI撮影。
・脳には異常が無いと言われた。
・目を動かす筋肉の麻痺と診断された。
・ステロイド治療を開始。
初診
初診時のご様子としては、複視が酷く一人で歩くことがままならない為、付き添いの方と一緒にご来院されました。
エレベーターから降りて診察室に入るまでの短い廊下(約5m程度)を歩くだけでも辛そうで、片目を閉じた状態で歩いていらっしゃいました。
発病の直前は公私ともに忙しかったそうで、ストレスや過労が溜まった状態だったそうです。
初診時の症状として、近くを見る時よりも遠くを見るに連れて症状が酷くなるということでした。
また左外方を見る時に症状が強くなることから、左外転神経の麻痺(外直筋の麻痺)が考えられました。
健康な目の場合、輻輳(ふくそう)という眼球運動が起こり、近くを見る時には眼球が内方を、遠くを見る時には眼球が外側に向く様になっています。
今回の外転神経麻痺では、支配筋である外直筋の働きが低下する為、遠くを見る時に輻輳が上手く働かず複視となります。
完全な神経麻痺になると外転筋の緊張が全く無くなる為、黒目が内側に向いてしまい内斜視が発症しますが、今回の方ではそれが見られませんでした。
また目を動かして頂いても、左目の外方転移が難しい(遅い)だけで、完全麻痺ではなく不完全麻痺であることが分かりました。
来院される前にステロイド治療を受けていましたが、来院時には全く症状に変化が無く、自然緩解を待っている状態でした。
この患者さんのように、これといった原因がない外眼筋麻痺(動眼神経麻痺、滑車神経麻痺、外転神経麻痺)の場合、殆どが神経や血管の炎症や循環障害が原因で起こります。
そのため正常医学的な対処としてはステロイドの使用が最善で、今回の方もその通りの治療を受けていらっしゃいました。
ただご本人としては症状の改善を待ち切れなかった為、鍼灸治療を受けにご来院されたということのようです。
今回の鍼灸治療の主たる目的としては、主に外転神経を栄養する血管の循環状態を良くすることでした。
通常、急性期の神経麻痺では、2~3か月以内の完治を目指して鍼灸治療を受けて頂きます。
今回は特に早期からの治療開始だったため、より早く症状を改善して職場復帰並びに完治が出来るように、週2回の頻度で受けて頂くようにしました。
鍼灸治療
外転神経は、内頚動脈の枝である脳内の血管から栄養を受けています。
内頚動脈とは、首の外側で脈打つ総頚動脈が枝分かれしたものですから、頚部の筋緊張を緩めることも大事な目的の一つです。
また外眼筋の働きを良くするために、目の周辺部への施術や、ストレスを軽減するために頭部や手足に施術をすることもあります。
更に血液循環がスムーズになるためには、自律神経系のバランスを整えることも非常に重要です。
なぜなら自律神経のバランスが乱れることで血液の粘度が高まり、ドロドロになった血液が血栓となり、毛細血管で詰まることがあるからです。
そのため自律神経のバランスを取ることで、常に血液が流れやすい状態を作り、神経系の働きを高めることも鍼灸治療の重要な目的となります。
この患者さんの場合には、急性期であることと出来るだけ早く完治させたいという希望に基づいて、週2回の頻度で施術することにしました。
また初回の施術では、上記のような治療方針で鍼灸治療を行い、後頚部、背部、肩部、目の周囲、足に施術を加えました。
<治療例>
初診から3日後に2回目の施術を行うため来院して頂くと、既に症状の40%程度が改善したということでした。
そこで初診と同様の治療方針で鍼灸治療を施術したところ、更に3日後の受診では約80%の症状が無くなったということでした。
初診から1週間以内に80%の症状が無くなったことは驚きですが、まだ急性期であることと、来院前にステロイドを受けていたこともあり、高い相乗効果が得られたせいではないかと思います。
<追記2023.3.16>
前回の施術から1週間後にご来院されました。
患者さんに自覚症状を伺うと、左外方を見た時に僅かに残っていた複視が全く無くなったそうです。
これで一般的には完治したと言って良いと思います。
後は再発予防のために2週間に1回のペースで数回施術すれば、完全に治癒ということにしました。
施術は前回までと同様の内容です。