近視性脈絡膜新生血管と鍼灸治療のお話
近視性(特発性)脈絡膜新生血管とは
近視性(特発性)脈絡膜新生血管は、原因不明の眼科疾患で、網膜に栄養を送る役割のある脈絡膜に、何らかの原因で新生血管が作られます。
新生血管は非常に出血しやすいため、出血痕から瘢痕化が起こり、黄斑変性症に移行することもあります。
また特発性(突発性)の場合には、近視などの危険因子が無くても起こることがあります。
黄斑部は中心視野に最も関係する場所ですから、この場所に新生血管からの出血が起こると、突然目の前が真っ暗になるという現象が起こります。
強度近視の方に脈絡膜新生血管が起こりやすいのは、強度近視の方の眼球形状に原因があるのではないかと思われます。
強度近視の方は眼球の軸長が長いため、眼底部に物理的なけん引力がかかり、網膜や強膜、脈絡膜などに負荷が掛かりやすい状態です。
こうした物理的なストレスが原因で、脈絡膜や網膜にも炎症や循環障害が起きやすい状態が作られます。
このメカニズムは、中心性漿液性脈絡網膜症と同様ではないかと思われます。
近視性脈絡膜新生血管の西洋医学的治療
近視性脈絡膜新生血管の診断は、蛍光眼底造影検査やOCT(光干渉断層計)により行われます。
こうした検査により新生血管が認められれば、次のような治療が行われることになります。
・抗VEGF薬治療
・網膜光凝固術
・黄斑移動術
・新生血管抜去術
こうした治療法の中で、現在主に行なわれているのは、抗VEGF薬の眼内注射と網膜光凝固術(レーザー治療)です。
網膜光凝固術は、レーザーにより新生血管が焼灼するため、黄斑部では視野欠損を生じる為行いません。
そのため最も行われるのは、抗VEGF薬による眼内注射です。
抗VEGF薬は、元々抗がん剤として使用されていたもので、血管の申請を阻害する働きがあります。
非常に即効性が高く、ほぼ確実に新生血管を防ぐ効果があるようです。
近視性脈絡膜新生血管治療への私見
-一鍼灸師の私見が含まれます-
脈絡膜の役割や近視性脈絡膜新生血管が起こる過程を考えると、この病気の本体が見えて来るような気がします。
脈絡膜は元々、光を受け取りその情報を視神経に伝える役割をする網膜に、栄養や酸素、色素を送る為、毛細血管がとても豊富な構造になっています。
強度近視の方は、構造的に物理的なストレスを受けやすいことは、上の項目でご紹介しました。
繰り返し物理的なストレスを受けた眼球の組織は、構造的にも変形することがあります。(後部ぶどう腫)
こうして脈絡膜や網膜に組織的な変化が起こり出すと(或いは起こる前でも)、脈絡膜や網膜には十分な栄養や酸素、色素が届かなくなり、それを補うために新生血管が作られます。
ところが新生血管は、元々予定されて作られた血管と違い、突貫作業で作られた血管です。
そのため非常にもろく破れやすいため、しばしば出血を引き起こします。
抗VEGF薬は、鍼灸治療と比べて非常に即効性が高く、短期的な効果はとても素晴らしい薬です。
ところが、根本的な原因である循環障害を改善することなく使用しても、その場凌ぎにしかなりません。
新生血管を抗VEGF薬によって無くしても、また数か月後に新しい血管が出来てしまえば、何度も繰り返し使用することになってしまいます。
当院に来院される方の中には、こうして何年もの間、数カ月おきに抗VEGF薬の注射を繰り返している方もいらっしゃいました。
勿論、放っておけば黄斑変性症に移行してしまい、失明する可能性もありますので、抗VEGF薬を継続して使用するしか方法は無かったのでしょうが…。
ただ抗VEGF薬を使用する回数が増えれば増えるほど、 出血や感染症のリスクが増えてしまいます。
また10年単位で見た時には、抗VEGF薬を使用している方でも、視力低下は進行していくようです。
ところが鍼灸治療の場合には、根本的な循環障害にフォーカスを当てて施術をするため、抗VGRF薬を使用しなくても、再発リスクを減らすことが出来ます。
ところが鍼灸治療を継続的に受けて頂いている方では、長期的な予後が非常に良い傾向があります。
これは鍼灸治療のというものが、根本的な循環障害に対するアプローチであり、対症療法である抗VEGF薬とは一線を画することを表しています。
ただ短期的な効果は抗VEGF薬に勝るものはありませんので、短期的な効果の高い抗VEGF薬と、長期的予後の良い鍼灸治療を組み合わせることで、非常に高い臨床効果が生まれます。
1回のみの使用で 十分な効果が得られる方の場合、抗VEGF薬をメインの治療としても良いと思いますが、もし抗VEGF薬の注射が複数回に及ぶようであれば、鍼灸治療を補助療法もしくはメインの治療とすることをお勧めします。
鍼灸治療で起こる変化
鍼灸治療を開始してから、早い方で2週間程度から、遅い方でも2か月程度で視力の変化が起こり始めます。
これは循環改善により視細胞の働きが回復したことと、自律神経を調整したことで水晶体を調整する筋肉の働きが改善したこと、更に視神経の働きも改善したためではないかと思われます。
傾向としては、視力の向上が強く見られる人では、脈絡膜新生血管に対する治療効果も高い傾向があります。
また脈絡膜新生血管により患側(発病した側)に視力が出なくても、健側の視力が上がるようでしたら、治療効果が挙がる可能性があります。
視力だけでなく、視野の変化もこの辺りから見られるようになるため、症状にもよりますが、当院ではこうした変化が見られる間は、出来るだけ頻度を多く来て頂きます。
特に最初の3カ月間は大事な時期ですので、週2回をお勧めしています。
最初の3カ月間は、体調を一気に良くするために勢いを付ける期間ですから、出来るだけ頻度を多く来て頂ければと思います。
逆に再発予防や現状維持が目的であれば、週1回から開始して、月1回程度でも体調の維持が出来ることもあります。
これが出来るかどうかは、仕事内容やストレスの状態などによりますので、初回カウンセリングの時に話し合って決定していきます。