ストレスと眼科疾患のお話3
視覚によるストレスで痛みが
前回の<ストレスと眼科疾患のお話2>の中で、視覚情報が扁桃体(感情・情動)にも影響を及ぼし、視覚情報と感情が合わさって認識されるということをご紹介しました。
実は視覚情報は、こうした感情だけではなく、その他の五感とも繋がっています。
例えば、目の前に美味しそうな焼きたてのケーキがあれば、視覚情報と甘い匂いは、同じ一つの情報として脳にインプットされます。
さらに実際に食べると、味や触感、温度など様々な情報が視覚情報と共にインプットされ、その時に感じた幸福感なども視覚情報と共に記憶されます。
すると、こうした様々な五感の情報と紐付いた視覚情報が記憶されることで、次に似たような体験をした時には、同じような感覚を見ただけで味わうことが出来ます。(皆さんもご経験があると思います)
ところがこうした総合的な視覚情報は、残念ながら悪い面でも働きます。
例えば、事故で大怪我をしたような状況であれば、その時経験した視覚情報には、事故の時に感じた痛みなども紐付けられた形で記憶されます。
そして次に同じような状況を目にするだけで、その時の痛みが呼び起こされることもあるのです。
脳の情報を上書き
通常であれば、こうした痛みを伴う視覚情報が記憶されても、時間と共に様々な経験で上書きされて、明確に思い出すことは出来ません。
ところが時と場合により、「見る」ということがきっかけになり、辛い記憶が呼び起こされることや、目の感覚が過敏な状態(眼痛や羞明※)になってしまうこともあります。
※羞明(しゅうめい):眩しくて不愉快な状態
こうした状況は、時として「事故によるトラウマ」であったり、「神経因性疼痛」とも呼ばれることがあります。
このように脳が誤作動を起こしているような状態では、眼科的に治療を施してもあまり効果はありません。
脳の誤作動を無くすためには、もう一度正しい脳機能を働かせるように、脳の情報を上書きする作業が必要になってきます。
本来は自動的に行われるこうした作業には、脳から分泌される脳内物質が適切に分泌されていなくてはいけません。
脳内物質の分泌を増やすためには、心療内科や精神科で使用するフルオキセチン(セロトニン再取込阻害薬)の服用が有効だと言われています。
ただフルオキセチンを飲むことがきっかけになり、更なる症状に悩まされる方もいらっしゃいます。
それが眼瞼痙攣や眼球使用困難症という疾患です。
眼瞼痙攣といえば、「眼ピク」といった瞼がピクピク動く状態を想像しますが、重度の眼瞼痙攣では、眼を開けることが全く出来ないほど眼輪筋が収縮し、いわゆる痙攣とは一線を画す症状を表します。
また眼球使用困難症では、眼というものを使用することが出来ず、光が目に入るだけで強い痛みや眩しさを感じるため、遮光眼鏡の上から溶接用のサングラスをしないと屋外に出られないような方もいらっしゃるようです。
こうした疾患は、純粋に眼科疾患とは言えないところも多く、一部の専門的な眼科医の他、精神科や心療眼科という科で治療を行っているのが現状です。
鍼灸治療では、一定の働きかけが出来るのではと思いますが、過去の経験上、安易に治療が出来るとは言えないところもあります。
他覚所見と自覚症状が一致しない疾患では、自覚症状が主な指標になりますので、鍼灸師側からしても扱いが難しいからです。
条件が整えば、ぜひ施術してみたい疾患の一つでもあります。